1.WTRNの活動は?
WTRNは、世界の温帯雨林を守るために2003年に結成された、NGO、科学者、先住民族、そして個人で構成された、世界各地にメンバーを持つ国際的なネットワークです。本部はアメリカにありますが、アメリカ、カナダ、オーストラリアのタスマニア、チリなどの温帯雨林が存在する場所とともに、日本などの消費国を含む様々な場所でキャンペーンが展開されています。
そのうちのアラスカ温帯雨林キャンペーンでは、アラスカ南東部に位置する世界最大の温帯雨林を守るための活動を行っています。
クリントン政権時代に手付かずの自然を残すとして「道路なしルール」指定対象地域となった、米国最大の国有林であるトンガス国有林を含むこの森林地帯には、生物学的に非常に価値の高い、古代からの原生林が存在しています。しかし、こうした原生林は、建築木材として需要の高い米ヒバやシトカ・スプルースの巨木があることから、皆伐(クリアカット)を中心とする持続可能・不可能な伐採の対象となってきました。ここ40年間で集中的に行われてきた伐採により、原生林のすでに70%が失われてしまっています。
アラスカからの製材用の丸太の60%はアジアに輸出されていますが、その最大の輸入国は日本であり、さらに、全体の輸出量の約半分が日本に入ってきています。
固くて丈夫なアラスカの原生林(オールド・グロース林)材は、日本で伝統的スタイルの住宅、神社仏閣などその他の建築物に使われているのです。
WTRNのアラスカ温帯雨林キャンペーンでは、日本の消費者・住宅メーカー・製材所・商社のみなさんに、アラスカ材に関しては、米国有林からの木材の輸入をやめ、私有林からのFSC1森林認証制度を受けた木材利用を進めてもらうように呼びかけています。
2.アラスカの温帯雨林
カリフォルニアからアラスカに広がる沿岸温帯雨林は、地球上で最も稀な森林形態であり、生物学的価値の非常に高い地域です。ここはフィヨルド地形の広がる、1000島以上の小さな島で構成されたところです。現在世界に残っているこのタイプの森林地帯のうち約3分の1が、アラスカ南東部にあたる800キロの長さの沿岸沿いに位置し、ここにはトンガス国有林・州政府所有林・私有林が含まれます。この地域全体の3分の2は岩、氷、そして低木植物で構成されていますが、原生の巨木も多く見られます。
アラスカ南東部のこの太古の森はまた、先住民族が生活・伝統文化を維持するために必要な物資を頼っている場所です。彼らの多くはいまだに、生活に必要なあるいは文化的行事としての狩猟・採集を行う場所として、この森林を必要としています。
アラスカの雨林は、海洋環境と森林を循環する生態系を持つことから、米国の他の地域では見られない豊かな野生生物の生息地です。特に、5種類ものサケ、そして米国一と言われるヒグマ・クロクマの個体群は、この地域のシンボル的存在です。その他にも、オオカミ、クロオジカ、ハクトウワシなどの鳥類もアラスカの森を住処としています。 また、近海にはクジラ、アザラシ、ラッコなども見られます。
3.アラスカ雨林の樹種
アラスカ南東部の森林で最も多い樹種は、約60%を占める米ツガ(ウェスタンヘムロック、Tsuga heterophylla)です。次にシトカ・スプルース(ベイトウヒ、Picea sitchensis)が30%、米スギ(ウェスタンレッドシダー、Thuja plicata)、米ヒバ(アラスカシーダー/イエローシーダー、Chamaecyparis nootkatensis)、その他の樹種が残りの約10%を占めます。シトカ・スプルースは、世界中で北アメリカ沿岸の温帯雨林にのみ生息しています。この中で最も商業的需要の高いのがこのシトカ・スプルースと米ヒバです。

4.アラスカの商業伐採問題
アラスカ材は高級建材としての需要が多く、アラスカ南東部は過度の伐採の対象となっています。伐採会社は、中でも、原生林を主要なターゲットにしてきました。地球上の他の地域ではあまり見られなくなった巨木が原生林に存在しているからです。この地域では、すでに約40万ヘクタール(四国の半分以上)の原生林が失われています。その中でも、伐採の主な対象である国有林のわずか4%を占める巨木群は、約70%がすでに消滅してしまっています。
(1)トンガス国有林の現状:「ロードレス・エリア」
「ロードレス・エリア」は、1999年にクリントン前大統領が提案し、2002年1月に手続きが完了した大統領令、「道路なし(ロードレス)ルール」に基づく保護地域です。
国有林のうち、原生林、および手付かずの希少生物の生息地域(全米で約2,350万ヘクタール)を保護するため、道路建設や商業伐採を禁止する政策でした。当時、米国有林の51%はすでに開発済みで、残りの半分を守るため、この政策には、最終的に450万件ものパブリックコメントが寄せられ、全米史上最大の支持が集まりました。
ところがその直後ブッシュ大統領の就任で、連邦政府の政策は森林保護から木材産業重視へと一転、大統領は2003年にトンガスを「道路なしルール」対象地域からはずしました。これに対して、米国民から反対の声が25万件も寄せられました。しかし、こうした反対にも関わらず、トンガス内のある島では木材伐採のための道路はすでに8,000キロ以上もつくられています。
このトンガスの林産品のうち、国内販売は約10%に過ぎず、販売経路のわかっているものだけで約4分の1が日本市場に流れています。
(2)アラスカ全土における私有林の現状
一方、私有林での伐採は、ほとんど規制を受けることなく行われており、ここでの過剰伐採を食い止めることが早急に必要となっています。
ここでの伐採は、アラスカの先住民族が株主となっている会社によるものがほとんどですが、その会社(Sealaska Corporation)は2005年11月に、2006年には伐採を25%削減すること、そして、現在のペースで伐採を続けるとすると同社の所有林からは、たった4-5年分の木材しか残っていないことを発表しています。
こうした持続不可能な状況を脱し、持続可能な森林管理を目指して、同社は現在、FSC(森林管理協議会)認証制度の取得に意欲を示しています。
(3)日本市場の重要性
アラスカ材の世界一の輸入国は日本です。米ヒバ、シトカ・スプルース、米スギ、米ツガが日本の伝統的スタイルの住宅や神社仏閣の、主に土台や建具として使用されています。建築用に使用されるシトカ・スプルースの平均樹齢は、300年から1000年です。これほど長い年月をかけて成長した巨木が、日本の建築物に使用された場合、平均して20年から40年で取り替えられています。シトカ・スプルースはまた、ギターやピアノなどの楽器に欠かせない樹種でもあり、アメリカのギター業界はシトカ・スプルースの持続可能な管理にサポートを示しています。
また、同様の木材は紙パルプ用としても日本に輸入されていて、2002年日本のアラスカ丸太の輸入量は31万、米材丸太全体の12% を占めています。
5.まとめ
アラスカ南東部は、本来なら「手付かずの自然」として大部分が厳しい保護の対象となるべき場所です。地球上の他の地域では見られない独特の生態系を持ち、多様な生物が存在する、生物学的に非常に価値の高い地域です。また、そこで生活する人々、特に先住民族にとっては貴重な文化遺産であり、生活の糧でもあります。何千年もかけて発達してきた原生林は、一度伐採されると再びもとの状態に戻ることは難しいとされています。特に、現在のようなきちんとした管理計画に基づいていない伐採方法では、二次林に同じ生態系を期待することは不可能です。日本の消費者は、アラスカの原生林破壊に責任を負っているのです。厳しい保護の対象となるはずだった国有林からの木材は購入しない、また、私有林の場合はFSC森林認証を受けた木材を購入する、WTRNはこの二つを日本の木材業者、そして消費者のみなさんにお願いしていきます。